夏の思い出 3.

パリのホテルに着いてすぐ、じゃあお昼はどこで食べようか?ってフラフラ歩き始めた。時刻はもう15時を過ぎていて、観光客目当てのお店ならともかく、まともな食事処は休憩に入っているんじゃないか... とキョロキョロしていた時に目が合ってしまった、店先を掃除するおじいさん。一瞬戸惑ったのだけれど、誘われるがままにお店へ入る。誰もいない、まさに「準備中」の店内。掃除をしていたおじいさんがオーナーらしく、他には誰もいる様子がない。メニューもなく、勧められた料理にうなずくと、おじいさんは奥へ消えていってカチャカチャと台所の音がし始める。大丈夫かな、まともな料理出てくるのかな?ってちょっと不安になったけれど、結構美味しい料理が出てきた。フランスへ来たら食べたかったテリーヌ。それに添えられたサラダが新鮮でよかった。サラダが美味しいかどうか、というのはレストランを評価する上での大事なポイントである。

料理はフレンチだったけれど、話をしてみればこのオーナーはイタリア人だった。ベネツィア出身で、僕が生まれた頃にパリに移民したという。「昔はよかったけど、今のパリは嫌いだ」会話がイタリア語に変わると、オレの特技はオペラさ、っていきなり歌い始めて... おいおい、もしかしてその歌にチップ払わなきゃいけないのかい?って、なぜだかちょっと不安を覚える。その不安、店に入った時からなんとなく抱いていた不安は、間違ってぼったくりのお店に入って抱くようなものだった。勧められるがままの料理を値段も確認せず頼んだこと、時間外で誰もいないガラガラの店内、オーナーの一風変わった雰囲気、がそういう気持ちにさせたのだろう。お会計を頼むと、ぼったくりとまではいかないが結構な金額。まあでもパリへ移民してきたばかりの頃の昔話、なかなかの美声、などのおまけを考えればいいか、と素直に支払って店を後にした。後から思えば、パリの高い物価を知らなかっただけで、あれは平均的な料金だった。「イタリアに帰ったら絵葉書送ってくれよ」って名刺を渡されたけれど、未だに書いていない。あそこへは本当に行ったのか、それとも昔読んだ小説に出てきたのか、今では不思議な映像となって記憶に残るレストラン。ただ残念だったのは水っぽいエスプレッソコーヒーだ。イタリア出身ならコーヒーの味は頑固に守って欲しいと思ったのだった。

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by kotaro_koyama | 2018-12-19 18:30 | 旅行 | Comments(0)

主夫と生活、ゴルフのこと。


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